CHI2018で発表された視触覚錯覚系システムのメモ

CHI2018に出ていた視触覚錯覚に関連する論文を読んだメモ&所感.

視覚情報をいじって重さのメタファを変化させる

Breaking the Tracking: Enabling Weight Perception using Perceivable Tracking Offsets
(ACMライブラリリンク)

f:id:yusuke_ujitoko:20180429115139p:plain (引用)

上に引用した画像は論文の1ページ目に載っているもの。
ユーザの実際の手の位置とバーチャル手の位置の動きに比率をかけて視覚提示することで,
擬似的な重さを表現しているように見えて、
よくあるpseudo-haptics研究の一つかなというような印象を一見受ける。

しかし読んでみると、既存の方式(pseudo-haptics)の枠を超えた提案であることに気づいた. 簡略化してまとめると、実際の手の位置とバーチャル手の位置のズレ(offset)をユーザが気づくのは前提とした上で、「重さのメタファ表現としてそのズレをユーザが受容できる」うちは使ってしまおうというものだ。
(表題のoffsetとperceivableは本研究の重要なキーワード)

既存方式(pseudo-haptics)の枠組みでは、 ユーザの実際の体の動きに対応する視覚情報を変化させる際に、 「ユーザに対して視覚情報をイジっていることを悟らせないこと」が制約条件であった。 そのためのテクニックとして、「ユーザの実際の体を視覚提示画面から分離した配置とする」ことなどが提案されてきた。 しかしながら、上記の制約条件の範囲内で設計できる視覚情報の変化というのは小さく、その効果も結果として微小なものに留まってしまうという問題があった。

本方式では大胆にその制約条件を取り払い、ユーザに重さを提示するという本来の目的を直接めざしている。 User studyの中で示されているように、また容易に予想がつくように、 「ユーザが気づくズレ量」<<「ユーザが重さを許容できなくなるズレ量」 とできるため,システムの設計は容易になる.

本研究の背景には,視覚情報変化させるときに制約条件の厳しさに応じて方式を変えるべきという問題意識がある(と思う).

  1. システムが介入していることをユーザに気づかせない
  2. システムが介入していることをユーザに気づかせてもよい(本研究はこちら)

あとは実際の効果のほどは如何ほどかというところだが、これは本当に体験してみないとわからない。 例えば、先日のIEEE Hapticsでみたタッチパネル上でのpseudo-hapticsは、見た目ほどの効果は感じられなかった。

ピンアレイ型 形状ディスプレイの高解像度化

Visuo-Haptic Illusions for Improving the Perceived Performance of Shape Displays
(ACMライブラリリンク)

f:id:yusuke_ujitoko:20180429212116p:plain (引用)

ピンアレイ型の形状ディスプレイにおいても視触覚錯覚を使うことで,
この類のディスプレイに付随する問題を解決する研究が発表されていた.

ここではその中の1つの問題を取り上げて紹介すると...,
ピンアレイ型の形状ディスプレイでは, 各ピンを駆動するアクチュエータのサイズがピンのサイズ設計に反映され, ピンアレイによって提示できる解像度を現状大きくできていないという問題がある。
実際デコボコしているピンアレイで滑らかな形状を提示するのが難しいことが想像できる.

そこでこの問題に対して本研究では,
(1)redirectionと(2)control/display ratioの制御による方式をそれぞれ提案している.

(1)redirectionによる高解像度化

たとえば軸に対して斜めに指でなぞる場合には次のようなデコボコ形状が提示されてしまう. 画像処理ではアンチエイリアス処理を施してこれを解決するが,本ディスプレイでは不可能.

f:id:yusuke_ujitoko:20180430133943p:plain (引用)

そこで,軸上をなぞる軌道を触らせておいて,視覚刺激としてはredirectして提示することで,高い解像度の触感を提示することを狙っている.

f:id:yusuke_ujitoko:20180430133958p:plain (引用)

f:id:yusuke_ujitoko:20180429213004p:plain (引用)

(2)control/display rationの制御

また別の高解像度化の手法として, 実際の指の動きに対するバーチャル指の動きの設定比を小さくしておく手法も提案されている. こうすれば,バーチャル指のいち動作中に接触するピン数を増やすことができ,解像度としては大きくなるという.

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この研究ではピンアレイ型形状ディスプレイの他の問題(提示空間のサイズ,ピンの動作速度)に対しても,錯覚による解決案を提示しており,とても盛りだくさんの研究だ.