自己身体意識
自己身体の意識というのは,非常に曖昧で可塑性がある.
「何が自分の身体で,何が自分以外の身体のなのか」という自他の帰属性は,
Sense of agency(自己主体感)とSense of ownership(自己所有感)という切り口で近年盛んに研究されている.
浅井さんの論文では以下のような説明がされている.
- 自己主体感は「ある行為を自分自身で行っている」という感覚
- 自己所有感は「ある行為が自分の身体で行われている」という感覚
たとえば「手をのばす」という行為であれば,「自分自身で手をのばした」と言う感覚が自己主体感であり,「のびたのは自分の手である」という感覚が自己所有感である.
Rubber hand illusion
Rubber hand illusion(RHI)研究では,
触覚の受動性,有無,空間配置の整合性,運動の同期非同期,など多種多様な条件のもとで,
ゴムの手袋に対する自己所有感の調査が続けられている.
例えば,Visuo-motor(視覚と運動の同期)の条件は,Visuo-tactile(視覚-触覚の同期)の条件のときよりも強くゴム手袋に所有感が生起するという報告がある.
Measuring the effects through time of the influence of visuomotor and visuotactile synchronous stimulation on a virtual body ownership illusion. - PubMed - NCBI
視覚と運動が同期するというのはかなり強めの生起条件らしい.
カーソルは身体の延長?
それなら,マウスで操作して動かすディスプレイ上のカーソルに所有感は生じているのだろうか.
カーソルというのはそもそも手のメタファとしてデザインされているものだ.
矢印型のアイコンが,たまに手の形になったりすることもある.
RHI実験でVisuo-motor刺激の条件でゴム手袋に所有感を感じるのであれば,ヒトの手を模したVIsuo-motorの条件で動くカーソルに対しても同様に所有感を感じてもおかしくはない.
Pseudo-haptic feedback
自分の身体の視覚映像を変化させることで,
操作者に擬似的な触力覚を提示するpseudo-haptic feedbackというものがある.
Simulating haptic feedback using vision
このpseudo-haptic feedbackは視覚刺激に所有感を感じるほど,効果が強いと言われている.
そして,カーソルの動きのControl/Display比をダイナミックに変化させると擬似的な抵抗感や触覚的ななにかを知覚する.
渡邉恵太さんのVisualHapticsを試すとよくわかる.
VisualHaptics: カーソルによる手触り感提示システム
ある程度カーソルに対して「自分の身体の一部である」感覚がしているからこそ,
その身体が視覚的に動きが小さくなったり,なにかにくっついた挙動をするときに,
「自分が」力のようなものを受けたように感じる.
これがpseudo-haptic feedbackの説明である.
でも,RHI実験でよくあるナイフでゴム手袋を刺す視覚刺激を与えるみたいなことを,
カーソルに対して行っても,マウスを持っている手を引っ込めたりはしない(気がする).
つまりRHIで言われている所有感はカーソルには感じていない?
それは程度の問題なのか,それとも種類が違うのか...